カイゼンベース / KAIZEN BASE

研修の効果を最大化するには?ラーニングピラミッドをもとに解説

ラーニングピラミッド
藤澤 俊明

藤澤 俊明

代表取締役
シニアコンサルタント

トヨタ自動車の生産技術部門を経験後、製造系大手コンサルティングファームを経て2015年にカイゼンベース株式会社を設立。国内外の製造業を中心とした人材育成・改善支援に尽力中。

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従来型の集合教育の限界とこれからの集合教育の在り方

教育担当者からのお悩みとして、次のようなことをお聞きすることが増えています。

「弊社では定期的に集合教育を行っていますが、教育後に思うように効果が出ません。何か良い教育方法はありますか?」

非常に多くの企業様から頂く質問であり、その背景には従来型の集合教育の限界が見え隠れしています。そしてこの悩みを感じているのであれば、これからの集合教育の在り方を見直す良い機会でもあります。

結論から申し上げると、座学中心型の集合教育「だけ」は学習の効果は5%程度であり、効果が十分ではないと言われています。本ページでは、教育方法と効果(定着度)の上げ方について、ラーニングピラミッドをもとに解説していきます。きっとこの記事を読み終わった頃には、自社で今後取り組むべきことが見えてきているはずです。

教育の方法にはどんなものがある?

それでは、企業における教育の方法にはどんなものが挙げられるでしょうか?
思い当たるものを挙げてみましょう。

  • 集合教育(講義)
  • 書籍を読む
  • eラーニング
  • ワークショップ型研修
  • 外部セミナーへの参加
  • OJT

いずれも一般的に行われている教育方法ですね。さて、これらはそれぞれどのくらいの効果があると思いますか?

ラーニングピラミッドという考え方を用いて、学習方法と学習効果の関係を確認していきましょう!

ラーニングピラミッドとは

ラーニングピラミッドとは、学習方法と学習定着率の順番にピラミッドに当てはめて表したもののことです。こちらに示す図のように、
「講義 → 読書 → 視聴覚 → デモンストレーション → グループ討議 → 実践による経験・訓練 → 他人へのレクチャー」
という順番に学習効果が増していくというものです。

このラーニングピラミッドは、科学的データに基づいたものではなく、あくまで経験則です。ただし、非常に納得感のある経験則であり、この図を見ただけでも「たしかにそうだな」と思うのではないでしょうか。

それではラーニングピラミッドの各階層について、詳細を確認していきたいと思います。

講義

講義は、いわゆる座学的な内容を一方的に説明する学習方法のことです。大学の講義や企業における集合教育はここの階層に該当します。

講義では、学習定着度(学習効果)は5%程度しか期待できないことになります。もちろん、講義が上手な講師により集合教育を行うことで、もっとこの数値を高めることはできますが、それでも何十パーセントにはならないということを認識しておかなければなりません。

読書

読書は、書籍を購入するなどにより、個人毎に知識を学ぶ学習方法のことです。講義よりも「自分の意志で文字を読む」という要素が入っているため学習定着度は少し上がりますが、それでも10%程度です。

ちなみに、ビジネススキルを身に付けるための書籍はたくさん出版されておりますが、分野によっては良い書籍が少ないこともあります。学ぶ内容にもよりますが、難しい内容がほぼ文章で書かれており、初学者にとっては難易度が高いケースも多いです。書籍を渡して「これを読んでスキルを付けておくように!」という学習方法は、有効性が低いケースも多いと認識しておくことが必要です。

視聴覚

視聴覚は、eラーニングのように、音声や動きのある動画で学習する方法のことです。単なる文字の羅列や静止画の学習よりも、動画学習は脳により大きな刺激を与えます。動画での学習の定着度は20%程度になります。

基礎知識や考え方を説明する教材を使用する場合、eラーニングのような視聴覚に刺激を与える学習方法が一番効果が高いということになります。

デモンストレーション

デモンストレーションというのは、通信販売等で採用されている方法です。実際に使っているシーンを見てもらうことで、「なるほど。そうやって使うのか」を知ってもらいます。ジャパネットの通信販売等を1度は見たことがありますよね。

企業においては、スキルを持った人が実際に行っている姿を見せて覚えてもらったり、他社の工場見学に行ってやり方を学んだり、他社の事例を参考にやり方を学んだりすることが該当します。デモンストレーションによる学習定着度は30%となり、これまで説明した方法よりも比較的高い数字となります。ただし、「実際に行っている姿を見せる」「他社の工場見学へ行く」「他社の事例を学ぶ」ということは、時間や手間が掛かり手軽にできるものではないため、全ての分野において適用するのは現実的ではないという問題もあることを頭に入れておかなければなりません。

グループ討議

グループ討議は、ワークショップ研修等のように、複数の受講者が集まり設定された議題に対して議論を行いながら学ぶ方法です。リアルタイムで自分の口で意見を伝えることは、ただ見るだけ・聞くだけよりも能動的な関わりが必要となります。他者の発言から新たな知識を得ることもあり、書籍を読んだり動画を見るよりも多くの効果が期待できます。学習定着度は50%と言われています。

また、自分だけではなく他者もいることで、「サボるわけにはいかない」「適当に発言するわけにもいかない」という心理的な効果も働くため、周りの環境の影響も受けながら学習に前向きに取り組めることにも繋がります。

実践による経験・訓練

実践による経験・訓練は、実際に課題に取り組みながら学習を行う方法です。与えられたテーマあるいは自ら設定したテーマに対して、学んだ知識をアウトプットしながら実践で活用できるスキルを身に付けていきます。実務でスキルを発揮するための訓練という位置づけで、学習定着度は75%になり一気に高くなります。

なお、実践の訓練とは言え方法は様々です。例えば、「実務に置き換えた時にどのようなことが当てはまるかを考えて記述させること」も簡易的な実践と言えます。学んだ知識に当てはめて自部署で不足していることをリストアップし改善すること(Before-Afterの改善)等も実践的な訓練の1つとなります。また、問題解決手法を活用して大きなテーマに取り組むこと(問題解決8ステップ実践)も多くの企業で行われています。

これらの方法を対象分野の特性に合わせて的確に設計していくことが大切です。

他人へのレクチャー

他人へのレクチャーはその意味の通り、考え方や知識、やり方を誰かに教えることで、更に学習定着度を上げていく方法です。教えられるレベルまで理解するプロセス、教え方を検討するプロセス、教えた時に受ける質問への対応プロセスを通じて、学習の定着度は90%まで向上します。誰かに教えることで定着度が上がるというのは、体感的にも納得できますよね。

ただし、学習対象者全てがレクチャーを行う場を作ることはできませんので、あくまで講師やメンターになる人材に対する学習方法となります。

インプット型学習とアウトプット型学習を組み合わせる

さて、ここまでの説明で勘の良い方はお気づきかもしれませんが、ラーニングピラミッドは上下で大きく2つに分けることができます。

ピラミッドの上部分の「講義 → 読書 → 視聴覚 → デモンストレーション」までは、インプット型の学習です。主に講師の説明や書籍、動画等の自分以外の何かから情報をインプットしながら学ぶ方法です。

一方、ピラミッドの下部分の「グループ討議 → 実践による経験・訓練 → 他人へのレクチャー」は、アウトプット型の学習方法です。いわゆるアクティブラーニングと呼ばれるものです。これらの方法でももちろんインプットもありますが、基本的には自分の頭で考えて発言を行ったり、自分で行動してアウトプットを出すことが主眼に置かれています。

つまり、学習の定着度を上げる為には、アウトプット型の学習を行うことが重要であることが分かります。

大事なのは両方を組み合わせること

ただし、「じゃあ座学教育やeラーニングなんてやらずにワークショップや課題を実施すれば良いのね」と安易に考えてはいけません。

例えば、何の知識もインプットされていない状態で「〇〇について議論して」「〇〇を実践して」と言われても普通はできません。従って、必要な知識や情報のインプットをしっかりと提供した上で、アウトプット型の教育を行うことが必要なのです。インプットされたその知識を使って、自らアウトプットを出すように道筋を作ってあげるというように、上手くインプット型とアウトプット型の教育を組み合わせることが大切です。

そして、もう1つ考慮しなければいけないことは、知識をインプットしたからといって、いきなり実践を行うことにはギャップが存在することです。知識を持っていたとしても、それをどう使えば良いのか分からないこともあります。使う材料や工具の種類を知っていても、実際に使ったことがなければ、いきなり家具を作ることはできませんよね。従って、アウトプット型の教育においても、必要に応じてステップを踏むことが大切です。

アウトプット型学習=ワーク型研修+実践課題研修がおススメ

アウトプット型学習においてオススメなのは、ワーク型研修(ワークショップ)を行い、その後に実践課題研修を行う方法です。

ワークショップでは、他の組織のメンバーと一緒に議論や検討を行うことで、よりインプットした知識の精度を上げることができます。リアルタイムで自分の口で意見を伝えることは、ただ見るだけ・聞くだけよりも能動的な関わりが必要となるからです。他者の発言から新たな知識を得ることもありますね。

また、実践的なケースをもとにケーススタディを行うことも有効です。自分の頭で答えを出すことで、実践に使う脳と同じ部分に刺激を与えることが可能です。

以上のように、一言で「研修」「教育」と言っても、様々な方法や特徴があります。

従って、企業における研修では、

  • インプット型の教育だけでは効果が薄いこと
  • インプット型に加えて、アウトプット型の教育を行っていくことで効果が上がること
  • アウトプット型の教育においても、その内容によってワーク型研修や実践型研修等をどう組み合わせるか検討することが大切であること
  • アウトプット型の教育に主眼を置く場合は、インプット型の教育はeラーニング等を活用し可能な限りコストや工数を抑えることが大切であること

等を考慮して設計することが大切ということがお分かり頂けたのではないでしょうか。

ラーニングピラミッドを踏まえた研修設計事例

それではここからは、実際にどのように研修設計を行い、教育の効果を最大化しているか、事例を確認していきましょう。

① eラーニングor集合教育+レポート提出による学習効果の向上

1つ目は、eラーニングあるいは集合教育とレポート提出をセットで行う研修方法です。座学研修はeラーニングや集合教育で行い、終了後に課題を与え自分の頭で考えて記述してもらう形で進めます。新入社員のマナー教育や報連相等の基礎的なコミュニケーションに関する教育において採用されます。

レポートに記述してもらうこととしては、
「本講義を聞いて、普段自分が不足していることはどんなことだと感じましたか?」
「本講義で学んだことを活かし、今後の業務でどのようなことにおいて行動を変えていきたいと思いますか?」
等が代表的です。

レポートの内容を検討することはさほど難しくないため、比較的容易に取り入れることが可能です。
ただし、レポート提出はアウトプットの1種ではあるものの、実践と言うには少し弱く、教育の内容によっては適していないものもあります。

② eラーニング+ワークショップの実施による学習効果の向上

2つ目は、eラーニングの学習とワークショップの実施を組み合わせる研修方法です。座学研修はeラーニングで実施し、ワーク型研修は受講者が集合して行う形です。

座学まで集合で行ってしまうと、かなりの時間を要するため、可能な限り1人で学べる部分はeラーニングで進め、皆で集合した際は集合しなければできないワーク型研修のみを行います。このやり方は学校教育では既にたくさん採用されており、「反転学習」とも呼ばれています。学校の授業で皆で学び、帰ってから1人で宿題等で復習する形が一般的ですが、それが反対になっているため、「反転」という呼び方が付けられています。

この形は、「学習効果の高さ」と「コロナ禍の環境」が相まって、企業内研修においても近年採用数が増加している研修方法となります。

③ eラーニング+ワークショップ+Before-After改善の実施による学習効果の向上

3つ目は、②に加えて、簡単な実践課題を行うことで研修の効果を向上させる方法です(Before-After改善)。

具体的には、学習した内容を踏まえ自職場で不足していること、自分が不足していることを洗い出し(Before)、実際に学んだ知識を使って改善を行っていきます(After)。

座学やワークショップで学習する知識は、誰でも理解できる形に一般化されている部分もあります。その一般化された知識を自分たちの職場に置き換えて考えた時に、「あ、これは自職場でも当てはまるから改善の余地があるな」等に気付くことが大事です。そして、気付いたことを自分なりに改善してみることで、知識がスキルに変わっていきます。

知識をインプットする ⇒ 自ら実際に使ってみる ⇒ 良くなったことを自ら体感する、というプロセスを経験することで、頭でっかちにならずに本当に使えるスキルを身に付けることが可能となるのです。

④ eラーニング+ワークショップ+問題解決8ステップ実践による学習効果の向上

4つ目は、②に加えて、問題解決の8ステップを活用した実践課題を推進していく研修方法です。

基本的な考え方は③と同様ですが、比較的大きめのテーマを実施する際には、単純なBefore-Afterだけではなく、問題解決の正しいステップに沿って進めていくことが重要なケースも多々あります。問題解決手法の代表的なものとしては、トヨタ式の問題解決8ステップがあります。このステップを用いて実践で結果を出すことによりスキルを体に染み込ませていくのです。

問題解決8ステップについては、下記の記事で詳細を解説していますので、ご興味のある方はご参照ください。

こちらをチェック!

[reg-bnr]問題解決8ステップとは? 問題解決8ステップとは、トヨタ自動車で生まれた問題解決手法です。 問題解決の効果を最大かつ着実に創出するために、8つのステップに体系化されたものです。8つのステップに沿って問題解決を進めて...

トヨタ式問題解決8ステップとは?

まとめ~研修の効果を最大化するための研修設計のコツ~

いかがでしょうか?
冒頭に紹介した「定期的に集合教育を行っていますが、教育後に思うように効果が出ません。何か良い教育方法はありますか?」という質問に対しては、下記が弊社としての回答となります。

「座学だけの集合教育を行っても当然効果は低いものになります。ラーニングピラミッドの考え方を参考に、座学等のインプット型の教育だけではなくアウトプット型の教育を組み合わせて行うことが大切です。」

是非本ページの解説が、今後の研修の在り方を見直す上の一助となれば幸いです。

本ページのまとめ

  1. 研修の効果を高めるためには、ラーニングピラミッドの考え方を押さえておこう!
  2. 研修の効果を高めるためには、インプット型の教育とアウトプット型の教育を組み合わせて設計をすることが大切である
  3. インプット型の教育では、eラーニング等の手軽な手段を採用することが合理的である
  4. アウトプット型の教育では、実践課題の実施により確実に定着させることを目指そう
  5. 改善の経験が浅い場合、比較的難易度の高いアウトプットにチャレンジする場合は、実践課題を実施する前に、ワーク型研修を導入することもおススメ

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