品質の種類とは?総合的な品質、ねらいの品質、出来栄えの品質、当たり前品質、魅力的品質の違いを解説
品質は、製品やサービスそのものの性能やスペックだけでなく、総合的な視点で捉えていかなければなりません。さらに、「ねらいの品質」、「出来栄えの品質」、「当たり前品質」、「魅力的品質」など、様々な種類の「品質」が存在します。これらの違いは分かりますか?
本ページでは、QCDを初めとした様々な品質の考え方について解説しています。
総合的な品質QCD
それではまずは、一番基本となる「総合的な品質」について確認していきたいと思います。
総合的な品質の視点
総合的な品質とは、QCDのことを指します。QCDとは、次のことを指します。
Quality:品質
製品やサービスそのもののスペックのこと
Cost:コスト
製品やサービスの原価・費用、つまり価格のこと
Delivery:納期
製品やサービスのお届け日・納品日のこと
これらの3つを「総合的な品質」として考え、製品やサービスをお客様へ提供する必要があります。なお、このQCDは、「生産管理の三要素」とも呼ばれます。
QCDは、ものづくりにおいては、最重要キーワードの1つですので、しっかりと覚えておきましょう。
なお、「Q:品質」だけを指す際は”狭義の品質”、「Q:品質、C:コスト、D:納期」全てを指す場合は、”広義の品質”となります。
お客様の声を聞き、ねらいの品質を明確にする
以上で説明した総合的な品質を踏まえた上で、
・お客様は誰か?
・QCDの各視点において、何を求めているのか?
という「お客様を取り巻く環境」について、しっかりと考慮した上で、「狙いの品質」を明確に設定していかなければなりません。
そのためには、
・製品やサービスに対する現状の満足度
・お客様が求めているあるべき姿やありたい姿
というような「お客様の声(VOC)」をしっかりと聞くことが大切です。
※VOC・・・Voice of Customer
QCDの優先順位
総合的な品質である「生産管理の3要素」は、どれも重要です。しかし、敢えて優先順位を付けるとすると、次の順番になります。
第1優先:(狭義の)品質
品質は、何よりも最優先です。
品質が落ちると、クレームにより信頼が低下し、注文がもらえないことにもなり得ます。また、手直し、やり直しにより、納期遅延やコストアップへも繋がってしまうことになります。
第2優先:納期
現代では、納期は注文決定の重要要因の1つです。
納期が長いと、注文をもらえません。また、納期に遅れても信頼が低下し、注文がもらえなくなってしまいます。
第3優先:コスト
優先度は3番目とは言え、コストは利益に直結します。競争力へも直結します。
コストが高いと、当然利益は出ません。そして、価格が高いと、お客様から注文をもらえません。
企業においては・・・
以上のことも踏まえ、企業においては、
- 性能やスペックである「Q:品質」は、絶対に守らなければいけないものであり、
- お客様から要求された「D:納期」で、他社との優位性を持つ必要があることを意識し、
- お客様の期待に応えられる「C:コスト」を実現し、競争力を獲得していくようにしましょう!
なお、QCDの3要素を満足させるためにも、製品やサービスを造る人、そして使う人の「安全」が100%確実に確保されていることが大前提であることも忘れてはいけません。
なお、安全を含めたQCDSや生産性P、モラルM、環境Eを含めたPQCDSMEに関しては、下記のページで詳細を解説しています。
[reg-bnr] 生産管理の3要素「QCD ~品質・コスト・納期~」とは? 生産活動とQ(品質)、C(コスト)、D(納期) QCD(きゅーしーでぃー)とは QCDとは、Quality(品質)、Cost(コスト)、Del...
様々な種類の「品質」
ねらいの品質とは
ねらいの品質とは、製品の目標として設定する品質のことを指します。設計図、製品仕様書等に定義されており、設計者が販売、技術、原価などを総合的に判断して決めたもので、設計品質とも呼ばれます。
実際に製造された製品の品質とは違い、設計段階で決まる品質のあるべき姿、目指す姿と言えます。
ねらいの品質は、顧客の要求をしっかりと聞き、それに合うように設定していきます。「顧客の要求にどれだけ合致しているか」が、ねらいの品質の良し悪しを決める大事な要素となります。
つまり、ねらいの品質とは、顧客のニーズを調査し、顧客が満足する製品を考え、それを実現するために設計図に落とし込んだ目標とも言えるのです。
また、ねらいの品質は、実現性を重要とします。顧客のニーズ、顧客満足は大切ですが、製造できなければ世の中に提供することができません。もし、製造できたとしても、不良率が高く、選別が続いている状態では全く意味がありません。
ねらいの品質のレベルを上げることはお客様満足度に繋がる重要な品質の一つの視点であり、設計が作り込む品質と言えます。しかし、設計にとっての後工程である製造の作りやすさも考慮する必要があり、総合的な品質向上を目指す必要があると覚えておきましょう。
できばえの品質とは
できばえの品質とは、実際に製品として製造した際の品質のことを指します。製造品質、適合品質とも呼ばれます。実際の製品が、ねらいの品質で要求されたことをどれだけ満たしているかが、できばえの品質の良し悪しを決めることになります。
一言で表すと、現物がどれだけ設計図面通りに作ることができたかの結果を指します。
製造品質は、製造での作り込みが重要であり、ねらいの品質を目指して製造を行ないますが、上記にも記述した通り、そもそものねらいの品質が現実的でない場合、高い製造品質を望むことはできません。
一方で、生産技術部門もねらいの品質を満たすための技術的なハードルを工程設計段階で乗り越えられなければ、高いできばえの品質を望むことはできませんし、製造部門も作りやすさ等のフィードバックを設計部門へ行い、新製品への折り込みなど、技術の蓄積を行う必要があります。
従って、ねらいの品質とできばえの品質の2つに分けて考えることが必要であり、どちらも製品実現には重要な要素となります。
当たり前品質と魅力的品質
当たり品質とは、「充足されないと不満だが、充足されても特にうれしくない品質要素」つまり、製品に辺り前に求められる最低限の品質です。当たり前品質とは、お客様が「この製品は最低限この品質を満たしているはずだ。」「この製品はこの品質を持っていて当たり前だ。」と思っている品質のことです。
例えば、自動車であれば、「安全に走行することができる」といった品質となります。当たり前品質が満たされていても、お客様は特に満足を感じることはありません。ただし、満たされていないと不満を感じる要因となります。
一方、魅力的品質は、「充足されても不満はないものの、充足されるとうれしい品質要素」つまり、製品に必要な要素を超える付加価値を付いた品質のことです。例えば自動車であれば「走行性能が高く、運転していて楽しい」「内装がおしゃれでデザイン性が高い」というように、満たされていなくても特に不満の要因にはならず、満たされることでお客様の満足に繋がる品質です。これは他製品との差別化が必要になります。
ただし、顧客によっての魅力は異なります。設計者や企画提案者が魅力と思い、市場に出しても、購入者が魅力と思わなければそれは魅力的品質にはなりません。設計、企画提案の時には、市場調査、顧客の声、製造からのフィードバック等、これらのバランスをどう考えるか、また顧客にとっての魅力をどう創り込んでいけるかが重要となります。
魅力的品質を向上させるために必要なこと
当たり前品質を満たす力が優れている日本
日本の製造業は技術力で優位に立ち、世界をリードしてきました。特に、お客様の要望どおり正確に製品を造り、不具合なく納品できることは日本の製造業の大きな強みです。言い換えると、当たり前品質を満たす力が優れているということができます。
しかし、昨今では先進国だけでなく途上国の工場もレベルが上がり、当たり前品質を満たすだけでは差別化が難しくなってきました。現代の競争に勝つためには、当たり前品質を満たしていることは大前提で、その上で魅力的品質をどのくらい高められるかが重要となってきているのです。例えば、一昔前は、「ハイブリッドカーの燃費」「液晶テレビの解像度」は魅力的品質でしたが、現在では当たり前品質に変化しています。「自動車の自動ブレーキ」「羽なし扇風機」も現在では魅力的品質に分類されますが、おそらく数年後は当たり前に品質に変わっていることでしょう。
今後は益々魅力的品質が求められる社会へ
お客様によって何に魅力を感じるかは異なり、時代によっても変化します。従って、魅力的品質を高めるためには、お客様が何に魅力を感じるか、何を望んでいるかをより詳しく、よりスピーディーに知る必要が出てきます。当然ながら、自社内だけを見て改善しても魅力的品質を高めることはできません。魅力的品質を高めるには、顧客に対する深い洞察や徹底したヒアリングに加え、突拍子のないアイデアでも採用する風土をつくることが求められます。全社一丸となってについて、どのような価値をつくり込めばよいのか考え抜いていくことが現代では重要となっているのです。
その他の品質要素
顧客の立場から分類した品質要素としては、当たり前品質、魅力的品質以外に、一元的品質、無関心品質、逆評価品質があり、5つの顧客要求品質と言われています。
一元的品質、無関心品質、逆評価品質についても簡単に紹介します。
一元的品質とは、「充足されないと不満、充足されるとうれしい品質要素」となります。一元的品質とは、自分が求めている品質に、与えられた品質が満たない場合は残念に感じ、満たされれば満たされるほど、申し分なく感じる品質を意味しています。充足度合いに比例して満足度が上昇します。例えば、バッテリーの持ち時間は、稼働時間が長ければ満足し、短いと不満となります。
無関心品質とは、「充足されてもされなくても、不満もうれしくもない品質要素」となります。例えば、家電製品の取扱説明書のデザインが挙げられます。また、自動車の場合でも、ユーザーから見えない部分の塗装の色、見えない大きさのキズは顧客満足に影響しないため、無関心品質と言えます。
逆評価品質とは、「充足されると逆に評価を下げる品質要素」となります。例えば、ある顧客は満足するが、別の顧客は不快に思うケースがあります。丁寧な接客は好む人もいれば、逆に煩わしく思うこともあります。また、多忙なサラリーマンで、移動のタクシーは一眠りするから、早く着きすぎるのは逆に困るという話もあるかもしれません。
品質要素の分類表
項目 | 内容 | 例 |
当たり前品質 | 充足されないと不満だが、充足されても特にうれしくない品質要素 | ・安全に走行できる自動車 ・ホテルの部屋の清潔さ |
魅力的品質 | 充足されても不満はないものの、充足されるとうれしい品質要素 | ・走行性能が高く、運転していて楽しいと感じる自動車 ・羽なし扇風機 |
一元的品質 | 充足されないと不満、充足されるとうれしい品質要素 | ・バッテリーの持ち時間 ・朝食バイキングの品数や質 |
無関心品質 | 充足されてもされなくても、不満もうれしくもない品質要素 | ・家電製品の取扱説明書のデザイン ・ユーザーから見えない部分の塗装の色 |
逆評価品質 | 充足されると逆に評価を下げる品質要素 | ・丁寧すぎる接客 ・早く着きすぎるタクシー ※顧客によっては不快に思うケースがある |
品質を満足させるためのポイント
顧客には、できばえの品質で製品を提供していくことになりますが、どのような点に気を付けていけばよいのでしょうか。
もちろん製造時の材料・部品の品質や作業品質を高めることは欠かせません。しかし実際には、ねらいの品質をどのように決めるかにかかっていると言っても過言ではないのです。どういうことでしょうか?
ねらいの品質を決定する際には、ただ顧客の要求を考えるだけではいけません。製造段階で不適合品の発生しにくい仕様とすることや、低コストで製造できる仕様とする等、「製造のしやすさ」も考慮に入れておくことが必要となるのです。なぜならば、製品の仕様により不適合品の発生しやすさは大きく変わってくるからです。
従って、設計段階では、「造りやすさ」の視点でもしっかりと関係者で検討し盛り込んでおくことが必要となります。
更に、顧客の要求する“品質”には、単純な製品の仕様だけでなく、納期や価格も含まれます。そのため、短納期、低コストで製造できる仕様とすることも顧客の要求する品質を満たすための大切な要素となるのです。
なお、実際には、設計部門が決めたねらいの品質に対して、製造部門が製造を行うというように、「ねらいの品質を決める部門」と実際に「できばえの品質を実現する部門」が異なるのが一般的です。しかし、製造のことを考慮に入れなければねらいの品質を決めることはできません。
つまり、ねらいの品質を決める際には、設計部門だけの部分最適な視点で検討するのではなく、製造に関わる部門とも連携し、全体最適な視点で検討することが必要不可欠となると覚えておきましょう。
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